「朝鮮人を殺せ」「朝鮮人首吊れ」──東京・新大久保や大阪・鶴橋における過激で異様なデモが注目を集めた。
朝鮮・韓国人集住地域に押しかけて罵声と中傷を浴びせるヘイトスピーチである。
在特会(在日特権を許さない市民の会)による過激な活動は1906年頃から続 き、同会会長は以前から「朝鮮人を殺せ」と叫んできたので新しい現象ではないが、ますます過激になったためにメディアも注目したのであろう。
「朝日新聞」3月16日付記事は、特定の個人ではなく朝鮮人に対する侮辱は名誉毀損罪に当たらないが、ドイツやイギリスなど西欧諸国ではヘイト・スピーチは犯罪であることを紹介し、悩ましい議論であることを示しつつ、表現の自由を強調する組み立てになっている。
「毎日新聞」3月18日夕刊記事や「東京新聞」3月29日付記事も、諸外国の法規制を紹介しつつ、法規制には困難もあるとし、市民の力で過激デモを止めさせる世論づくりが重要だと強調している。
差別や迫害を煽動するヘイトスピーチが諸外国では犯罪であることに言及したことには意義がある。
ただ、問題設定の仕方に疑問がないわけではない。
■諸外国では犯罪
第1に、法規制と表現の自由の保障をあたかも対立するかのように描き出している。
ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、ベルギー、オランダ、ノルウェー、スウェーデンなどにはヘイト・スピーチ規制法があり、実際に適用されている。
例えば、オランダのレルモンド地裁2002年2月22日判決は、民族的マイノリティ集団に向かって「外国人は出て行け」「ホワイトパワー」と叫んだ男性を1カ月の刑事施設収容(執行猶予付)とした。
それではオランダに表現の自由はないのだろうか。
国際自由権規約第20条は差別の唱道を禁止すべしとし、人種差別撤廃条約第4条はヘイトスピーチ処罰を求めている。
国際人権法は表現の自由を軽視しているのだろうか。
事態は逆である。
第2次大戦の教訓は、表現の自由を抑圧する国家が悲惨な戦争と人権侵害を引き起こしたことだが、他方で表現の自由に名を借りてユダヤ人迫害を遂行した歴史に学ぶ必要もある。
差別や迫害の煽動を処罰するのは、表現の自由を守るためである。
■総合的対策を
第2に「法規制の前にできることがあり、市民の力で世論を高めるべきだ」という指摘がなされる。
もっともであるが、これも二者択一思考に陥りかねない。
人種差別撤廃条約は行政・立法分野における差別の禁止(第2条)、自由と権利保障の実効的措置(第5条)、被害者救済(第6条)、教育・文化における「人種差別との闘い」(第7条)を求め、ヘイトスピーチ処罰を総合的対策の一環として位置づけている。
例えばデンマークは刑法233条で規制しているが、それ以前に多様なプログラムでヘイトスピーチ防止に努めてきた。
デンマーク政府は、非差別・平等の教育、広範な対話の実施、社会的役割モデルの提示、差別予防キャンペーン等の施策を行ってきたが、さらに2009年1月、「共通の安全な未来──若者の間の過激主義を予防するための行動計画」を策定した。
政府が予防努力を続け、社会がヘイトスピーチを許さないのに、あえてヘイトスピーチに出ると処罰がなされる。
日本でも総合的対策の中に位置づけた議論が必要だ。
(東京造形大学教授)
*JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」4月25日号3面
***********
朝日新聞デジタル:在日攻撃 牙をむく言葉(敵がいる:1)
http://digital.asahi.com/articles/OSK201304270133.html
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朝鮮・韓国人集住地域に押しかけて罵声と中傷を浴びせるヘイトスピーチである。
在特会(在日特権を許さない市民の会)による過激な活動は1906年頃から続 き、同会会長は以前から「朝鮮人を殺せ」と叫んできたので新しい現象ではないが、ますます過激になったためにメディアも注目したのであろう。
「朝日新聞」3月16日付記事は、特定の個人ではなく朝鮮人に対する侮辱は名誉毀損罪に当たらないが、ドイツやイギリスなど西欧諸国ではヘイト・スピーチは犯罪であることを紹介し、悩ましい議論であることを示しつつ、表現の自由を強調する組み立てになっている。
「毎日新聞」3月18日夕刊記事や「東京新聞」3月29日付記事も、諸外国の法規制を紹介しつつ、法規制には困難もあるとし、市民の力で過激デモを止めさせる世論づくりが重要だと強調している。
差別や迫害を煽動するヘイトスピーチが諸外国では犯罪であることに言及したことには意義がある。
ただ、問題設定の仕方に疑問がないわけではない。
■諸外国では犯罪
第1に、法規制と表現の自由の保障をあたかも対立するかのように描き出している。
ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、ベルギー、オランダ、ノルウェー、スウェーデンなどにはヘイト・スピーチ規制法があり、実際に適用されている。
例えば、オランダのレルモンド地裁2002年2月22日判決は、民族的マイノリティ集団に向かって「外国人は出て行け」「ホワイトパワー」と叫んだ男性を1カ月の刑事施設収容(執行猶予付)とした。
それではオランダに表現の自由はないのだろうか。
国際自由権規約第20条は差別の唱道を禁止すべしとし、人種差別撤廃条約第4条はヘイトスピーチ処罰を求めている。
国際人権法は表現の自由を軽視しているのだろうか。
事態は逆である。
第2次大戦の教訓は、表現の自由を抑圧する国家が悲惨な戦争と人権侵害を引き起こしたことだが、他方で表現の自由に名を借りてユダヤ人迫害を遂行した歴史に学ぶ必要もある。
差別や迫害の煽動を処罰するのは、表現の自由を守るためである。
■総合的対策を
第2に「法規制の前にできることがあり、市民の力で世論を高めるべきだ」という指摘がなされる。
もっともであるが、これも二者択一思考に陥りかねない。
人種差別撤廃条約は行政・立法分野における差別の禁止(第2条)、自由と権利保障の実効的措置(第5条)、被害者救済(第6条)、教育・文化における「人種差別との闘い」(第7条)を求め、ヘイトスピーチ処罰を総合的対策の一環として位置づけている。
例えばデンマークは刑法233条で規制しているが、それ以前に多様なプログラムでヘイトスピーチ防止に努めてきた。
デンマーク政府は、非差別・平等の教育、広範な対話の実施、社会的役割モデルの提示、差別予防キャンペーン等の施策を行ってきたが、さらに2009年1月、「共通の安全な未来──若者の間の過激主義を予防するための行動計画」を策定した。
政府が予防努力を続け、社会がヘイトスピーチを許さないのに、あえてヘイトスピーチに出ると処罰がなされる。
日本でも総合的対策の中に位置づけた議論が必要だ。
(東京造形大学教授)
*JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」4月25日号3面
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