米国が犯す「失敗の本質」
シリア武力介入に法的根拠なし
田岡俊次
http://diamond.jp/articles/-/41227
・・・・
政府側使用説は不自然
シリア内戦での化学兵器使用は今回、8月21日がはじめてではなく、今年3月から4月にかけダマスカスやアレッポで少なくても4回使われたことを国連人権理事会の「シリア内戦に関する独立国際委員会」が6月4日報告した。5月5日には同調査委員会のカルラ・デル・ポンテ調査官が「反体制派武装勢力がサリンを使用した可能性が高い。シリア政府軍が使用したとする根拠はない」と発言したが、政府側、反政府側は互いに相手の使用を非難しており、報告書は慎重に使用者を特定することは避けた。
シリア政府は3月国連にアレッポでの化学兵器使用に関する調査団派遣を要請し、他の地点も調査対象とするか否かで議論があったものの、3ヵ所の調査で合意、派遣が7月末に決定、8月18日に調査団20人がダマスカスに入った。調査を開始しようとした矢先、21日午前2時半ごろ、ダマスカスの東南方の郊外グータ地区等で化学兵器による大量の被害が発生した。国境なき医師団によれば3600人が入院、355人が死亡した。フランス政府の調査では「281人」とする。
米国が8月30日に発表した情報機関の報告書はシリア政府の化学兵器攻撃、と決めつけ死者1429人としているが、本来シリア政府が派遣を求めた国連の調査団が到着し、調査に掛かろうとする時に政府軍が人目を引くダマスカスの近くで化学兵器を使えば、政府にとり極めて不利、米軍等の介入を招く公算が大なのに、それをやったというのは、あまりに不自然、非合理の感を免れない。使うにしても調査団が帰った後など別のタイミングか、調査団がいない他の場所を選びそうなものだ。
米国の報告書にある「政府側の要員が21日に、ガスマスクを着けて化学兵器攻撃の準備をしていた」との証言は米国側の情報提供者、すなわち反政府側の人物から出たものだろうが、反政府側は米軍を戦争に引き込みたいのだからあてにはなるまい。
米国がいう「人工衛星情報では政府側支配地域からロケット弾が発射された」との話も怪しい。偵察衛星は南北方向に時速約2万8000キロメートル、高度300〜500キロメートルで地球を周回するから、世界各地上空を1日に1〜2回通過する。ダマスカス上空は一瞬で飛び去るから、たまたまその時にロケットが発射される確率はゼロに近い。静止衛星は赤道上空を高度約3万6000キロメートルで周回し、この高度では衛星の速度が地球の自転と合致し、地表からは停まっているように見える。だが地球の直径の3倍近い距離だけに、大型の弾道ミサイルが発射される際の赤外線(熱)はわかっても、小型のロケット弾は捉えられないはずだ。
スノーデン事件で有名になったNSAの電話傍受で「シリア政府高官が化学兵器の使用を確認していた」とも米国の報告書はいうが、高官が「化学兵器が使われたのは確かか?」と言っていても自分の側の使用なのか、攻撃の報告を受けて敵が使用したことを確認したのか、通話内容を全て聞かないとはっきりしない。Eメールは「なりすまし」の偽メールも簡単に送信できるから一層信用ならない。英下院は「化学兵器を使ったのはシリア政府側、との説得力がある証拠を政府は示せなかった」として、英政府が求めた攻撃容認動議を賛成272、反対285で否決した。与党の保守党は303議席だから与党にも賛成票を入れなかった議員が31人いた計算だ。
反政府側にも使用の動機はある
今回シリア政府が使ったか否かは別として。シリアが相当な量(500tとか1000tとも言われる)の化学兵器を持つことは確かだ。イラクの場合は湾岸戦争の停戦協定で「大量破壊兵器の廃棄」が決まっていたから保有は停戦協定違反で、米、英政府はイラク人亡命者の虚偽の“証言”を信じて攻撃、占領して捜索したが全く発見できず、内外の嘲笑の的となった。1997年発効の「化学兵器禁止条約」には189ヵ国が加入し、これはその開発、製造、貯蔵、使用等を禁じているが、シリア、北朝鮮、ミャンマー、米国の盟友エジプトなどは署名せず、イスラエルも署名はしたが批准していない。条約に入っていない国が化学兵器を持っていても攻撃の理由にはならない。
8月21日に使われた化学兵器はサリンのようだが、これはオウム真理教団も作れた程で、比較的簡単に作れるから「反政府派が隣国で作って持ち込んだ」とか「自由シリア軍に投じた将兵が、軍を離脱する際に持ち出した」とか、一時は反政府軍が軍の基地を制圧したこともあり「その際に奪った」などの話も出る。シリア政府が弁明にこうした話を作って流すことも十分ありうるが、それが本当である可能性も否定はできない。反政府側には自由を求める人々や、宗派の勢力拡大と政権奪取を狙う者、イスラム原理主義による支配をたくらむ者など、さまざまな集団がいて統一した司令部もない。その中で外国人を含むアルカイダ系集団が存在感を高めている。今年に入って、反政府軍の勢力は衰えて政府軍に圧迫されつつあり、唯一の希望は米国や、欧州諸国の軍が介入してアサド政権を倒してくれることだ。オバマ大統領は「化学兵器が使われれば介入する」と明言していたのだから、反政府側には政府側が化学兵器を使用したように偽装する動機はあったろう
・・・
*全文は以下で
http://diamond.jp/articles/-/41227
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関連
【田中秀征 政権ウォッチ】
◆安倍政権は米国の性急なシリア攻撃に
ブレーキをかけるべきだ
米国のシリア攻撃は、オバマ大統領が議会にその承認を求める方針に転換し、早く
ても9日以降に先送りされた。米国の性急なシリア攻撃は誰のためにもならない。
とりわけ米国の威信が失墜し取り返しのつかない事態に陥る恐れがあるからだ。
http://sys.diamond.jp/r/c.do?Bzp_33zc_dy_vow
シリアとイラクのアナロジー/ 酒井啓子
http://www.newsweekjapan.jp/column/sakai/2013/09/post-725.php
国を離れてアサドの暴虐を訴えるシリア人の声は、か弱い。だが蝶の羽ばたきが現地に届いたときに戦争になるのは、痛ましい
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政府側使用説は不自然
シリア内戦での化学兵器使用は今回、8月21日がはじめてではなく、今年3月から4月にかけダマスカスやアレッポで少なくても4回使われたことを国連人権理事会の「シリア内戦に関する独立国際委員会」が6月4日報告した。5月5日には同調査委員会のカルラ・デル・ポンテ調査官が「反体制派武装勢力がサリンを使用した可能性が高い。シリア政府軍が使用したとする根拠はない」と発言したが、政府側、反政府側は互いに相手の使用を非難しており、報告書は慎重に使用者を特定することは避けた。
シリア政府は3月国連にアレッポでの化学兵器使用に関する調査団派遣を要請し、他の地点も調査対象とするか否かで議論があったものの、3ヵ所の調査で合意、派遣が7月末に決定、8月18日に調査団20人がダマスカスに入った。調査を開始しようとした矢先、21日午前2時半ごろ、ダマスカスの東南方の郊外グータ地区等で化学兵器による大量の被害が発生した。国境なき医師団によれば3600人が入院、355人が死亡した。フランス政府の調査では「281人」とする。
米国が8月30日に発表した情報機関の報告書はシリア政府の化学兵器攻撃、と決めつけ死者1429人としているが、本来シリア政府が派遣を求めた国連の調査団が到着し、調査に掛かろうとする時に政府軍が人目を引くダマスカスの近くで化学兵器を使えば、政府にとり極めて不利、米軍等の介入を招く公算が大なのに、それをやったというのは、あまりに不自然、非合理の感を免れない。使うにしても調査団が帰った後など別のタイミングか、調査団がいない他の場所を選びそうなものだ。
米国の報告書にある「政府側の要員が21日に、ガスマスクを着けて化学兵器攻撃の準備をしていた」との証言は米国側の情報提供者、すなわち反政府側の人物から出たものだろうが、反政府側は米軍を戦争に引き込みたいのだからあてにはなるまい。
米国がいう「人工衛星情報では政府側支配地域からロケット弾が発射された」との話も怪しい。偵察衛星は南北方向に時速約2万8000キロメートル、高度300〜500キロメートルで地球を周回するから、世界各地上空を1日に1〜2回通過する。ダマスカス上空は一瞬で飛び去るから、たまたまその時にロケットが発射される確率はゼロに近い。静止衛星は赤道上空を高度約3万6000キロメートルで周回し、この高度では衛星の速度が地球の自転と合致し、地表からは停まっているように見える。だが地球の直径の3倍近い距離だけに、大型の弾道ミサイルが発射される際の赤外線(熱)はわかっても、小型のロケット弾は捉えられないはずだ。
スノーデン事件で有名になったNSAの電話傍受で「シリア政府高官が化学兵器の使用を確認していた」とも米国の報告書はいうが、高官が「化学兵器が使われたのは確かか?」と言っていても自分の側の使用なのか、攻撃の報告を受けて敵が使用したことを確認したのか、通話内容を全て聞かないとはっきりしない。Eメールは「なりすまし」の偽メールも簡単に送信できるから一層信用ならない。英下院は「化学兵器を使ったのはシリア政府側、との説得力がある証拠を政府は示せなかった」として、英政府が求めた攻撃容認動議を賛成272、反対285で否決した。与党の保守党は303議席だから与党にも賛成票を入れなかった議員が31人いた計算だ。
反政府側にも使用の動機はある
今回シリア政府が使ったか否かは別として。シリアが相当な量(500tとか1000tとも言われる)の化学兵器を持つことは確かだ。イラクの場合は湾岸戦争の停戦協定で「大量破壊兵器の廃棄」が決まっていたから保有は停戦協定違反で、米、英政府はイラク人亡命者の虚偽の“証言”を信じて攻撃、占領して捜索したが全く発見できず、内外の嘲笑の的となった。1997年発効の「化学兵器禁止条約」には189ヵ国が加入し、これはその開発、製造、貯蔵、使用等を禁じているが、シリア、北朝鮮、ミャンマー、米国の盟友エジプトなどは署名せず、イスラエルも署名はしたが批准していない。条約に入っていない国が化学兵器を持っていても攻撃の理由にはならない。
8月21日に使われた化学兵器はサリンのようだが、これはオウム真理教団も作れた程で、比較的簡単に作れるから「反政府派が隣国で作って持ち込んだ」とか「自由シリア軍に投じた将兵が、軍を離脱する際に持ち出した」とか、一時は反政府軍が軍の基地を制圧したこともあり「その際に奪った」などの話も出る。シリア政府が弁明にこうした話を作って流すことも十分ありうるが、それが本当である可能性も否定はできない。反政府側には自由を求める人々や、宗派の勢力拡大と政権奪取を狙う者、イスラム原理主義による支配をたくらむ者など、さまざまな集団がいて統一した司令部もない。その中で外国人を含むアルカイダ系集団が存在感を高めている。今年に入って、反政府軍の勢力は衰えて政府軍に圧迫されつつあり、唯一の希望は米国や、欧州諸国の軍が介入してアサド政権を倒してくれることだ。オバマ大統領は「化学兵器が使われれば介入する」と明言していたのだから、反政府側には政府側が化学兵器を使用したように偽装する動機はあったろう
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ても9日以降に先送りされた。米国の性急なシリア攻撃は誰のためにもならない。
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シリアとイラクのアナロジー/ 酒井啓子
http://www.newsweekjapan.jp/column/sakai/2013/09/post-725.php
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